たいようのはな。六章:水面の君。

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登場人物

桐崎 晃汰(きりさき こうた)
 東京の大学へ通う大学生。
 写真が趣味であり、そのレベルはプロになるには一味足りないといった具合。
 現在、スランプ。
 いつからか原因不明の頭痛に悩まされるようになるが、すぐに治まるため深刻には考えていない。
 紗奈のことを大切に思っており、何かあればすぐに大丈夫かと訊ねるほど。

「今回の旅行で紗奈の写真もたくさん撮るつもりだから、頑張って慣れようね」

​ 

沢渡 紗奈(さわたり さな)
 晃汰の恋人で、同じ大学へ通っている。
 白という色を好み、晃汰の撮る写真に惹かれ、付き合うことに。
 とても恥ずかしがり屋な性格で人見知り。
 初めての人と出会うと晃汰の背中に隠れるほど。
 丁寧な言葉づかいとふんわりとした性格から、小動物のような雰囲気を持つ。

「そ、そういう恥ずかしいこと言うの、禁止、です」

 

双海 夏希(ふたみ なつき)
 晃汰の幼馴染。晃汰のいない間も彼の祖父母に何度もお世話になっている。
 演劇サークルに所属しており、主役を張るほどの演技力を持つ。
 さっぱりとした性格と腰まであるポニーテール、豊満な体つきが特徴。

「よろしくね、紗奈ちゃん。
アタシのことは夏希さんでも夏希ちゃんでも好きなように呼んでいいから」

 

桐崎 しの(きりさき しの)
 晃汰の祖母。常に人を安心させる笑みを浮かべ、その笑みに負けず劣らず優しい性格をしている。
 プロ顔負けな料理の腕をもつ。

「ふふふ、晃汰の祖母の桐崎しのです。お婆ちゃんでいいよ、紗奈ちゃん」

 

※しのは誰かが兼ね役でお願いします。

配役(1:2:1)かぶり(0:1:0)
晃汰:
紗奈:
夏希:
ナレ:

被り
しの:

六章:水面の君。

晃汰:夕陽で茜色に染まった世界の中、
僕を見つめる紗奈の瞳は、あの桜の精と同じ、悲しみに満ちた瞳だった。
その悲しみを、僕は晴らせることができないのろうか。

 

紗奈:たいようのはな。六章:水面の君(みなものきみ

 

SE:セミの鳴き声

ナレ:あの夕焼けの告白から二日。
晃汰は自室で寝転がりながら、なにをするわけでもなく見慣れた天井を眺めていた。
脳裏に浮かぶのは、あの日の紗奈の悲しげな瞳だった。

紗奈『……、少し、考えさせてくれませんか?』(五章より)

晃汰(喜んでくれるものだと思ってた。
顔を真っ赤にして、はにかみながらさ……)

紗奈『……はい』(晃汰の妄想の紗奈)

晃汰(なんて。……ただの、うぬぼれたったのかな)

SE:寝がえり。畳の擦れる音。視線を紗奈のいる部屋へと移す

晃汰(紗奈……、どうして、あんなに悲しそうな目で僕を見たの……?
どうして、あの桜の精と同じ悲しみを……)

晃汰「……はぁ、暑い……」

SE:起き上がる

晃汰「紗奈、麦茶入れてくるけど、飲む?
……。っ、行くね」(紗奈の返事を期待するが返ってこない)

SE:廊下での足音

晃汰「はぁ、どうしたらいいんだろ……。昨日も――」

SE:鳥の鳴き声。川の音

晃汰『ここが竜明川りゅうめいがわ。子供の頃、この川でよく泳いでいたんだ』

紗奈『涼しそう、ですね』(沈んでいる)

晃汰『水が冷たくて気持ちいいんだ。少し、入ってみる?』

紗奈『……いえ』

晃汰『木陰で適当な岩にでも腰かけて、足をつけるくらいなら』

紗奈『すいません』

晃汰『……ん、そっか。じゃあ、他のところに行こう』

紗奈『はい』

晃汰「どこに行ってもずっと暗かったし、今日にいたっては部屋から出てきてもくれないし……。
……っ、ああ、もう! なんなんだよ……」

SE:ガララ……。玄関が開く音。しのが帰ってくる

しの「おや、晃汰」

晃汰「あ、婆ちゃん。どこか行っていたの?」

しの「ちょっと畑にね。それで、いったいどうしたんだい」

晃汰「いや、なんでもないよ」

しの「紗奈ちゃんのことだろう? 子供の頃から隠し事ができないのは変わってないねぇ」

晃汰「……はぁ、やっぱり、分かるよね」

しの「お墓参りの後から、二人ともぎくしゃくしてるもの。喧嘩でもしたのかい?」

晃汰「喧嘩ってほどじゃないよ。ちょっと僕が変なことを言っただけ」

しの「そうなのかい?
それで紗奈ちゃんは今どうしてるの? 朝から見てないけど」

晃汰「今日は部屋にずっとこもってるよ。声をかけても返事もしてくれない」

しの「……。晃汰、紗奈ちゃんを誘って、海に行っておいで」

晃汰「え? 海?」

しの「何があったかは知らないけど、このままでいるつもりなのかい?」

晃汰「いや……」

しの「婆ちゃんをだしにしていいから、ね?」

晃汰「……、ありがとう、婆ちゃん」

しの「ふふ、なんもなんも。
ああ、そういえば、今日は夏希ちゃんの舞台を見に行くんだったね?」

晃汰「そうだよ。だから、帰りはちょっと遅くなるかも」

しの「夜から天気が崩れるみたいだから、出来るだけ早めに帰っておいで」

晃汰「うん、わかった」

SE:晃汰、足音

​ 

しの「もうすぐ、なのかねぇ……」(幻の紗奈が消えることを指している

​ 

晃汰「紗奈、ちょっといいかな」

ナレ:晃汰は自室へ戻ると、ふすまごしに紗奈へ話しかけた。
しかし、先ほどと同じように彼女の返事はない。
晃汰はくじけそうになる心を奮い立たせ、さらに続ける。

晃汰「あのさ、一緒に海を見に行かない?
別に泳ぐわけじゃなくて、眺めに行くだけなんだけどさ。(少し間をおく)
僕のお気に入りの場所があるんだ。ね、一緒に行こう」

紗奈「…………、わかりました。
少し準備をしますので、待ってもらえますか?」

晃汰「っ、わかった!玄関で待ってるから、準備が出来たら来てね」

SE:晃汰去っていく

ナレ:ふすまの奥、薄暗い部屋の中、紗奈の悲しい呟きが広がる。

彼女は一人、泣いていた。

紗奈「……分かっています、もう、終わりにしないといけないって……。
『あなた』も、そう思っているから、晃汰くんの前に姿を見せたんですよね……?」(本物の紗奈のこと)

ナレ:果たして、彼女はいったい、誰に話しかけているのか。

紗奈「清次お爺さん、しのお婆さん、そして、夏希さん……。
晃汰くんを待っている人がいます。大切に思っている人がいます。
三人とも、とても優しくて、あたたかい方です。
だから、きっと大丈夫だと思います。(間をおく)
――私が、いなくても」

ナレ:彼は何も知らない。
彼女がどれほど辛い誓いを立てたかを。

SE:足音

紗奈「お待たせしました、晃汰くん」(いつも通り明るい様子)

晃汰「あ、紗奈……、っ!?」(紗奈の笑顔に惚れ直す)

ナレ:玄関で待っていた晃汰の元へ、紗奈が笑みを浮かべ、姿を現した。
あたたかでやわらかなその笑顔に、晃汰の鼓動が一瞬にして高鳴る。

紗奈「どうかしましたか?」

晃汰「カ、カメラ持ってくるの忘れたから、取ってくるね。
ちょっと待ってて」

紗奈「はい、わかりました」

SE:ダダダ
SE:鼓動をいれてもあり?

晃汰(どうして機嫌が直ったのかはわからないけど、笑ってくれた。
今だ……、今ならきっと永遠を撮れる! ああ、胸が苦しい。
こんなにも溢れてくるんだ、どうしようもないくらいに!
この想いを写真に閉じ込めるんだ)

晃汰「っはぁはぁ……、ごめん、お待たせ」

紗奈「ふふ、全然待っていませんよ。
一緒に海を見に行くんですよね」

晃汰「うん、僕のお気に入りの場所へ招待するよ」

紗奈「楽しみです」(微笑みかける)

SE:蝉の鳴き声(遠い)
SE:足音

ナレ:二人は真夏の日差しの下、晃汰のお気に入りの場所を目指す。
あぜ道をしばらく歩くと、薄暗い森へと続く石段が現れた。

晃汰「この先なんだけど、大丈夫?」

紗奈「このくらい平気ですよ」

晃汰「そんなに体力あったっけ?」

紗奈「ふふふ、実はあったんです」

ナレ:木々に挟まれた今にも崩れそうな石段を、二人はゆっくりとのぼっていく。
階段をのぼりきり、視界が開けたその先には、どこまでも広がる青い空と蒼い海が待ち構えていた。

紗奈「……ゎぁ」

晃汰「どう、かな? 僕のお気に入りの場所なんだけど」

紗奈「綺麗……」

SE:足音

晃汰「あっ、その先は崖になってて危ないよ」

紗奈「それじゃ近づかないようにしないといけませんね。
あぁ、綺麗……、この景色を持ち帰りたいくらいです」

晃汰「ふふ、これなら持ち帰れるけど?」

ナレ:晃汰は首にかけていたカメラを構えてみせた。

紗奈は、晃汰が気づかないほどの一瞬、悲しげな表情を浮かべたが、すぐに笑みを向けた。

紗奈「……、撮って貰えますか?」

晃汰「っ、もちろんだよ!」

ナレ:青い世界を背景に、白いワンピースの紗奈が晃汰へと微笑みかける。
ファインダー越しに見る彼女は、今まで見てきた中で一番綺麗だと晃汰は思った。

紗奈「晃汰くん……。あの日の言葉、とても嬉しかったです」

晃汰「いや、あの時は突然でごめん。驚かせちゃったよね」

紗奈「はい、驚きました。もう心臓が止まるかと思っちゃうくらい」

晃汰「はは、それは流石にオーバーじゃないかな」

ナレ:カメラを構えたまま会話を続ける。まだ、その時ではない。まだ。

紗奈「晃汰くん、お墓参りの時にお爺さん達となにを話したんですか?」

晃汰「え? 急になに?」

紗奈「だって、お爺さん達と話したから、あの桜の絵に込められている想いを知って、
永遠を撮りたいって思ったんですよね。どんな話をしたのか気になります」

晃汰「……悲しみの忘れ方を、教えてもらったんだよ」

紗奈「悲しみの、忘れ方、ですか?」

晃汰「うん。大切な人を失った悲しみは消えないよね、って聞いたらさ、
死んだ人はいなくなったわけじゃなくて、ずっとそばにいる。
それに気づくことが出来れば、悲しみをほんの少し、忘れられるって。
そう教えてくれたんだ」

紗奈「……どうして、そんなことを聞いたんですか?」(探るように)

晃汰「あれ、そういえば、なんでだろう。
桜の絵を思い出したら、自然ときいてた、って感じなんだけど」

紗奈「っ。桜の精がそうさせたんでしょうか?」(一瞬悲しそうになるが、もちなおす。わざと本物の紗奈のことに触れる)

晃汰「はは、そうかもしれないね」(それに気づかない)

紗奈「きっと、そうですよ。
……っ、……あの、晃汰くん……」(途中から笑顔が消えていく)

晃汰「ん? どうしたの? そんな神妙な顔して。
ほらほら、笑って」

紗奈「あの時の返事、してもいいですか?」

晃汰「っ。答え、決まったの?」

紗奈「はい、聞いてほしいです」

晃汰「……、分かった。どんな答えでも受け止めるよ」

紗奈「…………。あなたが気づかなくても、
沢渡紗奈は、ずっと晃汰くんのそばにいますよ」(かなり間を空ける。優しく)

晃汰「っ!?」

SE:パシャッ

ナレ:その瞬間、晃汰の指先はシャッターを切っていた。
まるで聖母のような慈愛に満ちた彼女の微笑みは、フィルムだけではなく、彼の心にも焼きついた。

晃汰「さ、紗奈……? 今のはどういう……?」

紗奈「ふふふ、内緒です」

晃汰「ちょ、ちょっと!?」

紗奈「なーいーしょ、です」

晃汰「なんか夏希に毒されてきてない?」

紗奈「そんなことないですよ」

晃汰「う、うーん……」

紗奈「晃汰くん、夏希さんの舞台が始まるまで、ここで私達の思い出を話しませんか?」

晃汰「なんかはぐらかされてるような気がするんだけど?」

紗奈「ふふふ」

晃汰「まあ、いいか」

ナレ:二人は近くの木陰に腰を下ろすと、初めて出会ったその時から順に、思い出話に花を咲かせ始めた。
それは、青い世界が赤く染まっても、終わることがなかった。

晃汰「それで、ほら、クリスマスの前にさ」

紗奈「っ。晃汰くん、そろそろ行かないと」(話をきるように)

晃汰「ああ、もうそんな時間か。えっと、少し急いだほうがいいかな」(途中で腕時計を見ている)

紗奈「あの野外舞台ですか?」

晃汰「いや、海沿いにある小さな劇場だよ。ここからだと30分くらい歩くことになるけど」

紗奈「分かりました。それじゃ、行きましょう。夏希さんの舞台へ」

ナレ:晃汰と紗奈は、茜色に染まった空と海に背を向け、その場を後にした。
劇場へと向かう間、不思議と二人は何も口にすることはなかった。
満ち足りた静寂が二人の間にはあった。

SE:ガヤ。劇場内

晃汰「お、結構入ってるな」

SE:足音

晃汰「うーん、後ろのほうになるけど、ここでいい?」

紗奈「はい」

晃汰「どんな舞台になるかな?」

紗奈「楽しみですね」

ナレ:ほどなくして、ゆっくりと照明が落ちてゆき、劇場内はしんと静まり返った。

SE:スポットライトのつく音

ナレ:誰もいない舞台をスポットライトが照らしたその時。

SE:タッ(舞台に夏希が舞うように現れる)

SE:ガヤで『ざわ』

紗奈「わっ……」

晃汰「んっ」

ナレ:いつもはポニーテールにしている長い黒髪を下ろし、
真っ白なローブのような衣装に身を包んだ夏希が、
スポットライトの中にふわりと舞うように現れた。

紗奈「綺麗……」

晃汰「本当に、夏希なのか……?」

ナレ:舞台上に、晃汰の知る幼馴染の姿はなかった。
エコーという精霊がそこにはいた。

晃汰「……」(見惚れる)

紗奈「晃汰くん……?」

晃汰「あ、あぁ、ごめん。ちょっと信じられなくてさ」(夏希に目を奪われていた)

紗奈「……、それは少しひどくありませんか? 夏希さんは綺麗な方ですよ?」(少し元気がなくなりかけるが、立ち直らせる)

晃汰「そう、だっけ……?」

紗奈「えぇ、とても」

ナレ:晃汰が再び視線を舞台へと戻す。
彼の知らない彼女と目が合った。

晃汰(あれは、本当に夏希なのか……?
いや、あいつはあんな声じゃない、あんな喋り方もしない。あんな表情も)

ナレ:浮世離れしたその美しさが、その場にいる者すべてを魅了する。
十年以上隣にいた晃汰ですらも。

SE:水の音。せせらぎ

ナレ:物語は山場に差し掛かり、エコーが水仙となったナルキッソスへと語りかける。

夏希「あぁ、ナルキッソス様……、あなたは水面に映った自分の影に囚われてしまったのですね……」

ナレ:水仙を撫でるように触れながら、エコーは独白を続ける。

夏希「私はあなたに何も伝えることができなかった。
あなたがもしも、私に好きと言ってくれたなら、愛してると言ってくれたなら、
この胸を満たす想いのひとかけらでも、伝えることができたのに……」

――間をおく

夏希「もう、あなたは一言も喋ることはないのですね。
あなたの言葉が無ければ、私は何も伝えられることができないというのに。(ちょっと間)
ナルキッソス様、あなたは私に消えてしまえとおっしゃいましたが、どうか、おそばにいさせてくださいませ。
言葉が無くとも、この想いがどうか伝わりますように……」

ナレ:その水仙を見つめるエコーの眼差しは、ふいに夏希が晃汰へと向けるものと同じではないだろうか。
ならば、己に囚われたナルキッソスは――。

SE:頭痛音

晃汰「いづっ!?」(激しい頭痛が晃汰を襲う。紗奈から夏希に想いが移りそうになったため)

紗奈「……晃汰くん」(悲しそうに。晃汰の頭痛はスルーする)

晃汰「紗奈……?」(痛みに耐えながら)

紗奈「出ましょう……?」

晃汰「どう、したの?」

紗奈「ごめんなさい、もう見ていられません……」

SE:ガタッ(席を立つ)

晃汰「ちょ、ちょっと待って。あ、すいません、すいません……」(劇場を出ようとする)

SE:足音
SE:ドアを開ける
SE:雨

ナレ:晃汰が劇場を出ると、外はしとしとと生ぬるい雨が降っていた。
アスファルトの濡れるにおいが鼻をつく。

晃汰「……っ、紗奈!」(辺りを見回して、見つける)

ナレ:彼女は街灯の下、雨を気にすることなく、立ち尽くしていた。
そのさまは今にも花びらを散らしてしまいそうな花を彷彿とさせた。

SE:足音(水音)

晃汰「急にどうしたのさ……?」

紗奈「ごめん、なさい……」

晃汰「……。うちに帰ろう?」(苦いため息の後)

紗奈「……」

晃汰「ほら、手をつないでさ、雨に打たれながら歌って帰るのはどうかな?
シンギングインザレイン、みたいにさ」

紗奈「晃汰くん……」

ナレ:紗奈が顔を上げ、晃汰を見つめる。
髪は雨に濡れ頬に張り付き、眉根は苦しげに寄せられ、瞳からは悲しみが溢れていた。

晃汰「っ、さ、な……? どうして、泣いて……」

紗奈「とても悲しくて……、とても辛いけど……、決めたんです……」

晃汰「な、何を決めたの? ぼ、僕のそばにいてくれるって言った、よね……?」

紗奈「……はい、そばにいますよ」(悲しそうに微笑む)

晃汰「なんでそんな風に笑うのさ。ほら、一緒に帰ろう」

紗奈「……」

晃汰「……紗奈……」

ナレ:差し伸べられた手を、紗奈は拒んだ。
信じられないといった面持ちで、晃汰が彼女を見つめる。
あの桜の精と同じ瞳が、彼を見つめていた。

紗奈「あなたは……、花になってはいけません……」(気持ちを押し殺して)

晃汰「どういう……?」

紗奈「っ!」(走り去る)

SE:紗奈が思い切り走る

晃汰「っ、待ってっ!!」

SE:晃汰も駆け出す

ナレ:夜の闇に溶けるように、紗奈の後ろ姿が遠ざかってく。
どれだけ必死に晃汰が走ろうとも、追いつくことができない。

晃汰「っ、どうしてっ!?」

SE:ザザザザー(土砂降りになる)

ナレ:雨足は晃汰を苛さいなむ様に強まっていく。

晃汰「はぁはぁっ、待って、おいていかないでっ!
花になってはいけないってどういうことなんだよっ!? 紗奈っ!!
っ!! 『また』一人になるなんて嫌だっ!!
っ、……またって、なんだよ……? っぐぅぅぅ……」(何かに気づくと同時に、頭痛が襲う。頭痛音)

SE:頭痛にひざまずく

晃汰:はっとした。咄嗟に出た『また』という言葉に。
何かが脳裏をかすめた瞬間、立っていられないほどの頭痛が僕を襲った。
まるで、それに気づいてはいけないと言うように。

 

つづく

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