たいようのはな。十章:最後のことば。

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登場人物

桐崎 晃汰(きりさき こうた)
 東京の大学へ通う大学生。
 写真が趣味であり、そのレベルはプロになるには一味足りないといった具合。
 現在、スランプ。
 いつからか原因不明の頭痛に悩まされるようになるが、すぐに治まるため深刻には考えていない。
 紗奈のことを大切に思っており、何かあればすぐに大丈夫かと訊ねるほど。

「今回の旅行で紗奈の写真もたくさん撮るつもりだから、頑張って慣れようね」

沢渡 紗奈(さわたり さな)
 晃汰の恋人で、同じ大学へ通っている。
 白という色を好み、晃汰の撮る写真に惹かれ、付き合うことに。
 とても恥ずかしがり屋な性格で人見知り。
 初めての人と出会うと晃汰の背中に隠れるほど。
 丁寧な言葉づかいとふんわりとした性格から、小動物のような雰囲気を持つ。

「そ、そういう恥ずかしいこと言うの、禁止、です」

双海 夏希(ふたみ なつき)
 晃汰の幼馴染。晃汰のいない間も彼の祖父母に何度もお世話になっている。
 演劇サークルに所属しており、主役を張るほどの演技力を持つ。
 さっぱりとした性格と腰まであるポニーテール、豊満な体つきが特徴。

「よろしくね、紗奈ちゃん。アタシのことは夏希さんでも夏希ちゃんでも好きなように呼んでいいから」

 

桐崎 清次(きりさき せいじ)
 晃汰の祖父。ぶっきらぼうな喋り方をするが、性格は優しく、晃汰のことを大切に思っている。
 愛煙家であり、お気に入りの銘柄はピース。事故で息子夫婦(晃汰の両親)を亡くしている。

「おう、晃汰か。またでかくなったな」

 

桐崎 しの(きりさき しの)
 晃汰の祖母。常に人を安心させる笑みを浮かべ、その笑みに負けず劣らず優しい性格をしている。
 プロ顔負けな料理の腕をもつ。

「ふふふ、晃汰の祖母の桐崎しのです。お婆ちゃんでいいよ、紗奈ちゃん」

 

※紗奈は誰かが兼ね役でお願いします。

配役(2:2:1)かぶり(0:1:0)
晃汰:
夏希:
清次:
しの:
ナレ:

被り
紗奈:

十章:最後のことば。

晃汰:現実から目をそむけるために、僕は夢におぼれた。
それは誰も幸せになることのない、悲しい夢で。
そこから僕を救ってくれたのは、大切なヒト達だった。

 

晃汰:たいようのはな。10章:最後のことば。

 

ナレ:向日葵畑のそばに置かれている青いベンチに、晃汰と夏希は腰掛けながら目の前の光景を眺めている。
淡い月明かりに照らされて、青白く染まる向日葵が、どこまでも広がっている。
晃汰の瞳からは、静かに涙が零れ落ちていく。

夏希「コウちゃん……」(以下、しおらしい)

晃汰「大丈夫……、ただ、止まらないだけだから……」

夏希「……」

ナレ:晃汰のにじんだ視界に、いつかの向日葵畑ではしゃいでいた紗奈の姿がよみがえる。
涙を拭えば消えてしまいそうな夢のかけらを、彼は愛おしむように見つめ続ける。

晃汰「好きだった……」

夏希「っ」

晃汰「本当に、好きだったんだ……。
子供のように笑うところや、僕の名前を呼ぶ声が……。
紗奈がそばにいるだけで、本当に、幸せだったんだ……」

夏希「……終わらせたく、なかった?」

晃汰「……、夢は、いつか終わるものだよ。それに……」

夏希「それに?」

晃汰「紗奈を、これ以上悲しませたくないから」

ナレ:そう言って晃汰は涙を拭った。夢のかけらとともに。
青白い向日葵畑から、紗奈の幻が消えた。

夏希「どういう……?」

晃汰「紗奈はさ、僕が気付かなかっただけで、いつもそばにいてくれたんだ。
きっと、あの日からずっと」

夏希「紗奈ちゃんに、教えてもらったの?」

晃汰「あぁ。帰ってきてすぐにさ、桜の絵を見に行っただろ?」

夏希「うん」

晃汰「お前が花見の準備をしてる時にさ、桜の精を二人見たんだ」

夏希「え? 二人?」

晃汰「一人は髪の長い高校生くらいの女の子で、幸せそうに笑ってた。
だけど、もう一人の子は悲しそうな目で僕を見ていたんだ」

夏希「それが……」

晃汰「紗奈だった。その時には気付けなかったけど」

夏希「……そうだったんだ」

晃汰「そりゃ悲しいよな。紗奈がいなくなったことに目を背けて、彼女の幻に僕は逃げていたんだから」

夏希「でもっ、それはコウちゃんが紗奈ちゃんのことをそれだけ愛していたからじゃ」(じゃないの?と続けようとする)

晃汰「それでもっ!(夏希の言葉をさえぎる)
それでも、目を背けちゃいけなかったんだ。
どれだけ辛くても、どれだけ悲しくても……」

夏希「……」

晃汰「そんな僕を彼女が見たら、悲しむことくらいわかってたはずなのに……」(後悔?)

夏希「コウちゃん……」

ナレ:晃汰の固く握りしめられた手を、優しく包み込むように夏希は手を重ねた。
太陽のような温もりが彼の強張りをほどいていく。

晃汰「夏希……」

夏希「それでもね、紗奈ちゃんはコウちゃんのことを責めていなかったと思うな。
もちろん、アタシも、お爺ちゃんとお婆ちゃんも。
誰もコウちゃんのことを責めるなんて、出来ないんだから」

晃汰「……」

夏希「紗奈ちゃんの気持ち、なんとなくわかるかも……。
嬉しいんだけど、悲しいっていうか……。
コウちゃんには分からないと思うな」

晃汰「どうして?」

夏希「同じ女にしか分からないよ、こんな切ない気持ち……」

晃汰「……」

夏希「あっ!? お爺ちゃんとお婆ちゃんに連絡しないと!
コウちゃんのこと絶対待ってるよ」(携帯を取り出そうとする)

晃汰「っ、僕がする。いや、僕がしないといけないって、思うから」

夏希「……うん、分かった」(取り出そうとするのをやめる)

SE:ゴソゴソ(晃汰、携帯を取り出す)
SE:ピッピッピッ(携帯を操る音)
SE:トゥルルルル……

晃汰「もしもし、婆ちゃん? うん、ごめん、心配かけて。
今から帰るから。うん。夏希も一緒だよ。……うん、ありがとう。それじゃ、あとでね」

SE:ピッ

夏希「……紗奈ちゃんのこと、言わなかったんだ」

晃汰「電話で言うようなことじゃないよ」

夏希「そっか。それじゃひとまず、――帰ろっか、コウちゃん」(途中からいつもの夏希に戻る)

ナレ:夏希はベンチから立ち上がると、晃汰へと手を差し伸べた。
短くなってしまった髪を気にすることなく、いつものように笑いかけながら。

晃汰「……」(手を握る)

夏希「手を握るだけじゃなくて、立ってほしいんだけど、って、うわわわわっ!?」(手を引っ張られる)

SE:ギシッ(ベンチのきしむ音)

夏希「いったぁ……。もう、急に引っ張らないでよ。
なに? 最初に会った時の仕返し?ほら、帰るよ?」

SE:ギュゥゥ……

夏希「え? ちょ、ちょっと、コウ、ちゃん……?
あの、離してくれないと、立てないんだけど……」(顔真っ赤)

晃汰「少しだけ、このまま……」(泣きかけ?)

夏希「……ちょっとだけ、だからね」(離れようとするのをやめる。晃汰の気持ちを察して優しく)

晃汰「悪い。いつも、助けられてばかりで……」

夏希「……いいの。アタシが好きでやってるんだから」

晃汰「髪も」

夏希「さっき言ったでしょ? 髪なんかよりもコウちゃんの方が大切だったの。
それに、髪はまた伸ばせばいいんだし」

晃汰「でも」

夏希「くす、髪は女の命、なんていうけどね、大切な人を助けるためなら、なんてことないんだから」(とても優しく。ゆっくり)

晃汰「……ごめん」

夏希「謝らないでよ」

晃汰「ごめん……」

夏希「もう、しょうがないなぁ」(ゆっくり、落ち着いて)

SE:ギュゥ(夏希、抱きしめ返す)

晃汰「っ」

夏希「……どう? 少しは落ち着きそう?」

晃汰「ん、ありがとう……」

夏希「うん、謝られるよりも、そっちのほうが何倍も嬉しいよ」

ナレ:夏希の香りに包まれて、晃汰は静かに泣き続けた。
今だけは、紗奈を失った悲しみにひたっていたかった。
夢から覚めた、今だからこそ。

SE:虫や蛙の鳴き声
SE:二人の足音

ナレ:雨上がりの湿った空気を感じながら、二人はあぜ道を歩いていく。
近すぎず、遠すぎず、友達とも恋人とも違う、幼馴染の距離で。

夏希「こうやって、夜道を二人で歩くのも、久しぶりだね」(恥ずかしくて焦り気味)

晃汰「そうだな、高校以来か。でも、何も変わってないよな」(花守村のことを言ってる)

夏希「そう、かな。結構、アタシは変わったと思うんだけど……」(自分達のことだと思ってる)

晃汰「何も変わってないよ。あの頃と同じ、綺麗なままだ」

夏希「え? あ、いや、そ、そう? コウちゃんは前からそう思ってたんだ」

晃汰「そばにいるのが当たり前だと思っていたものがなくなると、余計にそう感じるんだよ」

夏希「こ、子供の頃からずっと一緒だったしね」

晃汰「あぁ、東京には田んぼや山なんてないからな。星もこんな風に見えないし」

夏希「……え? あ、あぁ、そっち?」

晃汰「ん? そっちって?」

夏希「いやいやいやいや、なんでもない、なんでもないから!」

晃汰「顔真っ赤だぞ。熱でもあるんじゃないか?」

夏希「全然大丈夫だから。すんごい元気だから」

晃汰「そ、そっか」

夏希「はぁ……、ほんとコウちゃんって変わらないよね……」

晃汰「僕?」

夏希「うん、昔っからな~んにも変わってない。まあ、アタシも変わってないけど……」(後半はつぶやく感じ)

晃汰「……そんなことないよ。久し振りに夏希と会った時、すごい綺麗になっててびっくりした」

夏希「え? いや、ちょっと待って。それって……」

晃汰「流石に気づくって。女心がさっぱり分からない僕でもね」

夏希「~~~~~!! 違う、違うからっ!! それ、思いっきり勘違いだし!!
ばーかばーか、コウちゃんのばーか!!」

晃汰「子供か、お前は……」

夏希「うっさい!!」

晃汰「紗奈が教えてくれたんだよ、あなたは花になってはいけませんって」

夏希「? どういうことさ?」

晃汰「エコーとナルキッソスにかけてるんだよ。
つまり、僕がナルキッソスで、紗奈が水面に映った自分。
なら、エコーが誰のことなのかくらい分かるよ」

夏希「……そ、それは」

晃汰「エコーの気持ちが痛いくらいに分かるんだろ?」

夏希「覚えてたんだ……」

晃汰「夢から覚めたからって、忘れるわけじゃないからな」

夏希「うぅ……、なんであんなこと言っちゃったんだろ……」

晃汰「だから、……悪い。それを今、受け入れるわけにはいかないから……」

夏希「……うん、分かってる。アタシの知ってる幼馴染は、そんなことするような奴じゃないって」

晃汰「そっか」

夏希「あ~あ、紗奈ちゃんが羨ましいよ。そんな風にコウちゃんに想われてさ」

晃汰「紗奈は夏希が羨ましいんじゃないか?」

夏希「アタシ?」

晃汰「分かるだろ? お前は生きて、ここにいる」

夏希「……そうだね。

こうして今、アタシはコウちゃんと一緒に歩くこともできるし、これから先も一緒に歩くことができる」

SE:ギュ(夏希が晃汰の手を握る)

晃汰「っ」

夏希「手をつなぐことも……」(うつむきながら、頬を染めて)

晃汰「夏希……」

ナレ:頬を真っ赤にして俯いている夏希の横顔に、一瞬、紗奈の面影が重なる。

紗奈『幸せになって下さい』(九章より)

ナレ:胸に小さな痛みを感じながらも、晃汰はその手を強く握り返した。

晃汰「……待っていて、くれるか?」

夏希「っ、う、うん、待つのは慣れてるから。コウちゃんが紗奈ちゃんを大切に思うのは、当たり前のことだし。
それにアタシの知ってる幼馴染は、そういう素敵な男の子だってことも知ってる」

晃汰「ありがとう」

夏希「にひひ……、っ、ぐすっ、あ、あれ……? どうして……」(泣きはじめる)

晃汰「っ、紗奈の代わりとかそういうわけじゃ」

夏希「ちが、違うってば……っ、ぐすっ、悲しいからなんかじゃないよ……。
ひっく……、もう、ほんと女心が分からないんだから……」

晃汰「じゃあ、なんで泣いてるんだよ」

夏希「……嬉しいからに決まってんじゃんか、馬鹿」

晃汰「ぅ、ぁ……」

夏希「ぐすっ……ずずっ、っはぁ……、あぁ、もう、なんかむかつく……。(泣きやむ)
紗奈ちゃーん、コウちゃんに泣かされたーっ!!」

晃汰「ちょ、おいっ!?」

夏希「ねえ、どこかで見てるんでしょーっ!! どう思うー? この男、最低だと思わなーい?」

晃汰「やめろっての!!」

夏希「でも、こんな馬鹿でも隣にいたいって思うから……。(ここは恥ずかしそうに抑える)
紗奈ちゃーん、ごめんねーっ!!」

晃汰「お前……」

夏希「にひひ、紗奈ちゃんに言われたんでしょ? 幸せになって下さいってさ。
だから、アタシがコウちゃんのこと、うんと幸せにしてあげる」

晃汰「はぁ……、そういうセリフは男が言うもんだぞ」

夏希「だって、コウちゃん、男らしくないし。しょうがないじゃん」

晃汰「お前なぁ……」

紗奈『ふふ、二人とも、大好きです』(紗奈、エコー)

晃汰・夏希「「っ!?」」

夏希「今、紗奈ちゃんの声……」

晃汰「聞こえた、よな?」

夏希「うっひゃーっ!! はっずかしーっ!! 紗奈ちゃんに全部見られてたーっ!!」

晃汰「だから、いい加減にしろってのっ!!」

SE:ゴス(夏希の頭にげんこつ)

夏希「あいったーっ!! なにすんのよ、コウちゃん!」

晃汰「今、何時だと思ってんだよ。少しは静かにしろ」

夏希「別にいいじゃん、このくらい。
それでも、男か~? 金玉ついてんのか~?」

晃汰「はぁ……、女がそういうこと言うなよ……」

夏希「にゃはははは」

晃汰「くすっ、ったく、ははは」

夏希「あ、コウちゃんが笑った。紗奈ちゃーん、コウちゃんが笑ったよーっ!!」

晃汰「だから、大声だすなってっ!!」

夏希「コウちゃんこそ」

晃汰「……、ははは」

夏希「ぷっ、くすくす、はははははは」

晃汰・夏希「「ははははは」」 紗奈『ふふふふ』(晃汰と夏希の笑いに紗奈の笑い声も入れる)

ナレ:静かな夜道に楽しげな笑い声が木霊する。
悲しみを乗り越えた、夢の果てで。
二人はどちらからともなく手をつなぎ、夜空を見上げた。

夏希「ふふ、月が綺麗だね、コウちゃん」

晃汰「あぁ、綺麗だな……」

ナレ:今はまだ、幼馴染のまま。

​ 

​ナレ:虫の音に耳を傾けながら、慣れ親しんだ家路を二人は歩き続ける。
遠目に家の明かりが見えると、門灯のそばに二つの人影が立っていることに晃汰は気づいた。

晃汰「あれは……、爺ちゃんと婆ちゃん?」

夏希「コウちゃんが帰ってくるのを待ってたみたいだね。

本当に、二人とも長い間、コウちゃんのことを待ってたんだから」(長い間ってのは、晃汰が夢から覚めるまでのこと。感慨深く)

晃汰「……なんて、言えばいいんだろうな」

夏希「そんな難しく考える必要なんてないよ。
コウちゃんが思ってることを、そのまま言えばいいの。
着飾った言葉なんかいらないでしょ。
――だってさ、家族なんだから」

晃汰「っ、そうだな。ありがとう、夏希」

夏希「にひひ、どういたしまして」

SE:足音

ナレ:伝えるべき言葉もまとまらないまま、祖父と祖母の元へと近づいていく。
しのはいつもと変わらない温かな笑みで晃汰を出迎えた。

しの「おかえりなさい、晃汰」

晃汰「……ただいま、婆ちゃん。爺ちゃんも」

清次「ああ、おかえり」

しの「夏希ちゃん、それどうしたんだい?」

夏希「え? あぁ、髪のことですか。えーと、いろいろありまして……、えへへ」

しの「そう? (一度笑みを浮かべてから)紗奈ちゃんも、おかえり」

晃汰「……っ」

ナレ:誰もいない晃汰の隣へと、笑みを向けるしのの姿に、彼は言葉を詰まらせた。
自分はどれほど、この大きな優しさに守られてきたのか。
今、その優しさに応えなければならない。

晃汰「婆ちゃん……」

しの「ん? おやおや、よく見たら皆、泥まみれじゃないかい。
お風呂沸いてるから、ゆっくり入っておいで。
それとも、先に紗奈ちゃんに入ってもらった方がいいかねぇ」

晃汰「そうじゃ、なくて……」

しの「? どうしたんだい?」

晃汰「……、今まで、ありがとう」

しの「え……?」

晃汰「もう、大丈夫。
紗奈と、ちゃんとお別れできたから」

しの「っ。……そうかい。(涙声)
辛かったねぇ」

晃汰「ずっと、心配かけちゃってごめん」

しの「いいんだよ、そんなこと気にしなくていいの」

晃汰「……」(こみあげる)

しの「晃汰、おかえりなさい」(泣きながら笑顔)

晃汰「っ、ただいま」(涙)

SE:足音。清次が晃汰のそばへ寄る

清次「またひとつ、でかくなったな」

晃汰「ありがとう、爺ちゃん」

清次「はは、そんな水臭いこと言うな。家族だろ」

晃汰「うん……。
爺ちゃん達が教えてくれたから、紗奈がそばにいるんだって気づけたよ」

清次「そうか」

晃汰「うん……」

清次「はは、晃汰も婆さんも泣いてちゃしまらないだろう。
夏希ちゃんもいるんだぞ?」

夏希「うぅぅぅっ……、ひっく、ぐすっ、うぅっ……」

清次「って、ははは、夏希ちゃんも大泣きか」

夏希「うぅぅ、だってぇ……」

清次「その髪、晃汰のために切ったんだろう?
ありがとうな」

夏希「ひっく、ぐすっ……。こ、こんなの、っ、なんてことないですよ。
コウちゃんのためだもん」

清次「そうか。本当にありがとうな。
さあ、いつまでも玄関先で泣いていても仕方ない、中に入ろう」

しの「っ、そうですね。夏希ちゃんもおいで」(涙をぬぐってから)

夏希「はい」(涙をぬぐってから)

SE:足音。晃汰は動かない

清次「晃汰」

晃汰「うん、すぐ行く」

ナレ:帰るべき我が家を前にして、背の彼女へと別れを告げる。
そばにいると信じて。

晃汰「それじゃ、行くね」

紗奈『はい、いってらっしゃい』(晃汰の後ろから聞こえる

晃汰「っ、……うん」(一瞬、驚いてから、落ち着いて)

ナレ:恐らく、これが彼女と交わす最後の言葉だと感じながら、
晃汰は前へと進み始めた。

晃汰「ただいま」

 

つづく

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