登場人物
配役(1:1:0)
男:
女:
数え歌と心中
≪数え歌は適当にふしつけてください≫
~遊郭にて~
女「一つ、独り(ひとり)は寂しと泣いて、
二つ、二重(ふたえ)の契り(ちぎり)を交わす……」
男「なんじゃ、またその歌か」
女「おや、起きんしたか」
男「へへ、相変わらず、ぞっとするほど別嬪だな、お前は。
寒気がするくらいだ」
女「そんないじめんでくださんし」
男「好いたおなごほど苛めたくなるものよ。
ほれ、まだ寒かろう。こっちへこい」
女「あい」
SE:スルル……
男「うおぉ!? 雪みてぇにつめてえな。
こいつぁしっかりあっためてやんねえとな」
女「んっ……、あい。あちきのこと、融かしてくださんし」
男「あぁ、曙にゃあまだ早えからな」
女(頭ん中で繰り返すは、おっかさんから教えてもらった数えうた。
三つ、巳(み)を食み、魅に溺れ、
四つ、夜の音(ね)、褥(しとね)を濡らす)
男「あっという間に融けちまったな。
もう湯のようだぜ」
女(五つ、今際(いまわ)の宵の果て、
六つ、無残な曼殊沙華)
男「どうした、そんな泣きそうな目をして」
女「ぬしさんの、ややこが欲しい……」
男「あぁ、いいぜ。いくらでも注いでやる」
女(七つ、名無しの子を抱ひて、
八つ、八千代(やちよ)に思ひます)
男「はぁ……、はぁ……」
女「あぁ、おっかさんの言った通りだ。
なぁんも怖くねえ」
男「ぁん? 何を言って……」
SE:ザシュ!!
男「っぐぅっ!!! おめぇ……!」
女「九つ、今生(こんじょう)、悔いはなし。
十で黄泉路(よみじ)をとおりゃんせ。
ぬしさま、愛しております。
ずっとずっと……」
男「っかは……、ったく、しゃあねえな……。
一緒に逝ってやるよ……」
女「……あい」
男「さっさと来ねえと、置いてっちまうからな……」
女「あい……。
……一つ、独りは寂しと泣いて、
二つ、二重の契りを交わす。
三つ、巳(み)を食み、魅に溺れ、
四つ、夜の音、褥を濡らす。
五つ、今際の宵の果て、
六つ、無残な曼殊沙華。
七つ、名無しの子を抱ひて、
八つ、八千代に思ひます。
九つ、今生、悔いはなし、
十で黄泉路をとおりゃんせ……。
この子と一緒に……」
SE:ザシュッ!!
おわり