(この台本はツイキャスでリスナーから要素を募集して書かれたものです)
使用要素:前世の記憶をもつ二人、ネット恋愛
……いまいち要素が使いきれていません。
登場人物
過去編(キャラの年齢がシーン毎に老けていく)
千代子
18歳(最初のシーン)。親が決めたお見合いで勝敏と結ばれるも、心がそれについていかけず悩んでいる。
勝敏
34歳(最初のシーン)。お見合いで千代子と結ばれるも、無償の愛情を彼女に注ぎ続ける。
choco(チョコ)
17歳。インターネットを通じてVと年齢を偽って付き合っている。
V(ブイ)
34歳。chocoのことを28歳の大人の女性と思って付き合っている。
千代子と勝敏の舞台:何十年も昔の日本。
chocoとVの舞台:現代日本。
配役
千代子・choco:
勝敏・V:
月が、綺麗ですね。
勝敏「ただいま、千代子さん」
千代子「おかえりなさい、勝敏さん」
勝敏「もうすぐ十五夜だからかな。月がとても綺麗だったよ」
千代子「そうですか。夕飯の準備が出来ていますよ。それとも、お風呂にしますか?」
勝敏「先にお風呂に入ろうかな。今日はずっと歩き詰めだったから」
千代子「わかりました。その間にお味噌汁温めなおしておきますね」
勝敏「うん、ありがとう」
千代子:私と勝敏さんは親が決めたお見合いで出会いました。
写真もなく、相手の顔も知らないままお見合い当日を迎えた私は、不安でたまりませんでした。
そんな私の前に現れたのは、私よりも一回り以上年の離れた勝敏さんでした。
勝敏「うん、今日のご飯も美味しいよ」
千代子「そうですか?」
勝敏「特にこの魚の煮つけが絶品だね。ご飯が進むよ」
千代子「そんなに急いで食べなくても、ご飯は逃げませんよ?」
勝敏「あったかいうちに食べたほうが美味しいじゃないか。
はぐ、もぐ、んぐっ!? んんっ!!!」
千代子「はい、お茶です」
勝敏「んぐんぐっ! ごほっごほ」
千代子「もう、子供じゃないんですから」
勝敏「いや、面目ない」
千代子:勝敏さんは朗らかな笑顔の似合う優しい人でした。
この人と結ばれるのなら、幸せな結婚生活を送れるかもしれないと、当時の私は思ったものです。
ですが、好きでもない男性との結婚生活が幸せなわけがありませんでした。
勝敏さんが優しい分、真綿で首を絞められるような息苦しさを私は感じていました。
勝敏「千代子さん、縁側で少し月でも見ないかい?」
千代子「月、ですか?」
勝敏「あぁ、帰ってきた時にも言ったように、今夜は月がとても綺麗でね。
千代子さんと一緒に見たいんだ」
千代子「構いませんけど、団子もなにもありませんよ?」
勝敏「そんなものなくて構わないよ。
ただ、僕は千代子さんと月を見たいだけなんだから」
千代子「わかりました。体が冷えるといけませんし、温かいお茶を用意しますね」
勝敏「あぁ、待ってるよ」
千代子:勝敏さんはお見合いで結ばれたにもかかわらず、私へ無償の愛情を注いでくれていると思います。
ですが、私はそれを受け入れることができませんでした。
ただ、一緒に同じ月を眺めていると、ほんの少し、息苦しさが和らぎました。
勝敏「月が綺麗だね」
千代子「そうですね。十五夜の時にはお団子も用意しましょうか」
勝敏「あぁ、それはいいね。晴れるといいな」
千代子「お酒も少しだけ準備して……、クシュン」
勝敏「ごめん、寒かったね。お月見の続きは十五夜までとっておいて、今日はもう寝ようか」
千代子「はい、ごめんなさい」
勝敏「君が謝る必要なんてないよ」
千代子:優しい言葉をかけられる度に、私はますます勝敏さんに対して申し訳ない気持ちになっていきます。
この人の優しさや愛情を素直に受け入れることのできる別の方が隣にいるほうが、
彼は幸せになるのでないかとそう思うのです。
勝敏「風邪をひかないように、暖かくして寝るんだよ?」
千代子「はい、大丈夫です」
勝敏「千代子さんはそう言ってよく無理をするからね」
千代子「無理なんて……」
勝敏「そう言って先月熱をだしたろう? そんなに体も丈夫じゃないんだから無理はしないように」
千代子「わかりました」
勝敏「それじゃ、千代子さん、おやすみ」
千代子「はい、おやすみなさい、勝敏さん」
千代子:いつになれば、私はこの人を好きになることができるのでしょう。
どれだけの時が過ぎれば、私はこの人の想いに応えることができるのでしょう。
私が勝敏さんの想いに応えられた時、この人はどんな笑顔を私に見せてくれるのでしょう。
V「ただいま、choco」
choco「おかえりなさい、Vさん」
V「今日も疲れたよ……。部長の嫌味もたっぷり聞かされたし……」
choco「お疲れ様。肩でもおもみしましょうか?」
V「そばにいたらお願いしてるだろうね。
仕事中、ずっとパソコンに向かってるから肩こりがひどくて。もう歳かな」
choco「そんなことないよ。まだ34歳でしょ?」
V「もう34歳だよ。chocoもあと数年したらわかるようになるよ」
choco:私はインターネットを通じて遠距離恋愛をしています。
出会いは、偶然私が彼の配信を覗いたのがきっかけでした。
私が来るまで、ほかに視聴者は誰もおらず、コメントもありませんでした。
だけど、落ち着いた喋り方と優しい彼の声に、私はついコメントを打っていたのです。
V「にしても、chocoと会う日までもう一週間かぁ。どんな格好していこう」
choco「私はスーツ男子が好みだよ!」
V「いや、流石に初めてのデートでスーツはどうかと……。
しかも、仕事用のやつしかもってないし」
choco「それでも私は全然大丈夫!」
V「うーん、一応、考えておくよ。プレゼントはもう用意してあるんだけどね」
choco「本当!? ありがとう、Vさん」
V「chocoの誕生日でもあるしね。確か28になるんだっけ?」
choco「そ、そうだよ」
V「まだまだ若いなぁ……」
choco:Vさんに私はひとつ嘘をついている。
それは私の本当の年齢のこと。
Vさんには27歳と言っているが、本当の私の年齢は17歳だ。
本当のことを言ったら、女性として見てもらえないと思ったからついた嘘だった。
だけど、それも来週になればすべてがばれる。
Vさんはこのまま私と付き合ってくれるのだろうか。
V「ねえ、choco、来週、僕と会ったらなにがしたい?」
choco「え? なにがしたいか?」
V「そう。chocoがしたいことなら、できるだけ叶えてあげたいからさ」
choco「……Vさんと手をつないでデートしたい、かな」
V「ぷっ、はははは」
choco「ど、どうして笑うのさ」
V「ごめんごめん、ついね。chocoって時々、本当に子供っぽいこと言うよね。
そういうところが好きなんだけどさ」
choco「む。じゃあ、デートの時お酒いっぱい飲んでVさんを困らせてやる!」
V「ふふふふ、だから、そういうところが子供っぽいんだってば」
choco:来週の誕生日に、私はVさんと初めてリアルで出会う。
彼の本当の名前も顔も知らないまま。
なのに、好きという感情は際限なしに上がり続け、不安もまた際限なしに膨れ上がっていく。
V「さあ、今日はこの辺にして寝ようか」
choco「うん、来週楽しみにしてるね」
V「が、がんばります……」
choco「ん? 何を頑張るの?」
V「いや、ほら、chocoにがっかりされないように?」
choco「それを言うなら私もだよ。Vさんにがっかりされないように私も頑張る」
V「……くく、いったい何を頑張るんだろうな、僕たち」
choco「なんだろうね」
V「うん、やっぱり、好きだよ。来週、会えるのを楽しみにしてる」
choco「私も好き。来週、いっぱい甘えさせてね」
V「好きなだけどうぞ。それじゃ、今日はおやすみ、choco」
choco「おやすみなさい、Vさん」
choco:そうして通話を切り、パソコンの電源を落とす。
来週、Vさんは本当の私の姿を見てどう思うんだろう。
まだ子供だと知って、別れることになるんだろうか。
早く会いたいという気持ちと会うのが怖いという感情に揺さぶられながら、私は眠りについた。
(15年後)千代子33歳 勝敏49歳
勝敏「あぁ、今年の十五夜も月がきれいだ」
千代子「そうですね。大きくてまんまる」
勝敏「初めてのお月見の時と何も変わらないね。まだ覚えてるかい?」
千代子「えぇ、覚えています。あの時もこんな風に大きくてまんまるのお月さまでした」
勝敏「子供たちもだいぶ手がかからなくなってきたし、
こうして千代子と夜の散歩をする時間もとることができるようになった。
こういう何でもない当たり前のことが、僕はとても幸せに思うよ」
千代子「……そう、ですね」
勝敏「千代子にはだいぶ苦労を掛けたね。僕は仕事ばかりで子供たちの世話をほとんどしてもらったし」
千代子「いえ、私はあの子たちのお母さんですから」
勝敏「そうか、そうだね」
千代子:虫の鳴き声が遠く聞こえる夜道を勝敏さんとゆっくりと歩いていく。
あれからもう15年。子宝にも恵まれ、はたから見れば幸せな家庭を築けていると思います。
ですが、いまだ私の心は勝敏さんのすべてを受け入れることができないでいました。
勝敏「千代子さん、手をつないでもいいかい?」
千代子「手、ですか?」
勝敏「そう、子供たちとするように。いやかな?」
千代子「は、恥ずかしいです……」
勝敏「うーん、そうか。それなら、仕方ないかな」
千代子「ごめんなさい」
勝敏「いや、何も謝ることじゃないよ。もう僕たちもいい大人だからね」
千代子「……」
千代子:そう言って困ったように微笑む勝敏さんの顔には皺が増えました。
それでも、出会ったころと変わらない朗らかな笑顔に、私の心はちくりと痛みます。月を見上げながら歩く勝敏さんの後ろを歩きながら、
どうして差し出された手を握らなかったのかと思いました。
勝敏「来年も、再来年も、何年たっても、ずっとこうして十五夜の夜には散歩をしようか。この日だけは二人きりで」
千代子「いい考えですね」
勝敏「そう言ってもらえると嬉しいよ。千代子は恥ずかしがり屋だからね」
千代子「勝敏さんが気にしなさすぎなんですよ」
勝敏「そうかな? はは、そうかもしれないね」
千代子「……勝敏さん」
勝敏「なんだい?」
千代子「本当に、月が、綺麗ですね」
勝敏「っ、……うん、そうだね。とても綺麗だ」
千代子:ほんの小さな一歩だと思います。
15年経って、ようやく踏み出せた小さな一歩。
手をつなぐことも出来ない私ですけれど、
勝敏さんの想いをうまく受け入れられない私ですけれど、あなたに、私と出会えてよかったと、
そう思って欲しいと大きくて真ん丸なお月さまに願ったんです。
V「ついに明日か……。すごく緊張してきた」
choco「えへへ、私も。もう新幹線の切符も旅行鞄も準備ばっちりだよ」
V「今夜は夜更かししないで、早めに寝ないとね」
choco「そうだね。あ、Vさんは明日どんな格好で来るの?」
V「あー、内緒にしておこうかとも思ったんだけど、言っておいた方がいいよね、やっぱり。
実は明日のために、新しいスーツを買ったんだ。あとで写真送るよ」
choco「本当!? スーツ姿のVさんとデート」
V「chocoはどんな格好でくるの?」
choco「私はちょっと冒険して、ミニスカートでいきます!」
V「……かなり冒険してきたね」
choco「それ、どういう意味で言ってる?」
V「いや、どういう意味って言われても……」
choco「ふふ、冗談」
V「そういう冗談は勘弁してくれ」
choco:明日の夕方にはVさんの隣に私がいる。
そう思うと、胸の奥が熱くなり、それと共に締め付けられるような痛みも感じます。
この一週間、私なりにずっと考えて、悩んで、苦しんで、
それでも結局、会いたい気持ちがなにもかもを飲み込んでいました。
V「ちゃんとお洒落なレストランも予約したからね。プレゼントも……ちょっとは期待してもいいよ」
choco「そう言っておきながら、すごいの用意したんでしょ?」
V「いや、ほんと、ちょっとだから」
choco「……給料1か月分とか?」
V「……ちょっと少ないくらいかな」
choco「ほら!! やっぱり、ちょっとじゃないじゃん!!」
V「いいんだよ、初めてchocoと会うんだし、このくらい。
ほら、僕、元々あんまりお金のかかる趣味とかないし、貯金とか結構あったし」
choco「……っ。……私、そんなことしてもらえるような彼女じゃ、ないよ?」
V「……急に何を言い出すのさ」
choco「だって、本当は私……」
V「僕はchocoのことが好きだよ。
顔も名前も知らないけれど、chocoと出会えて本当によかったと思ってるよ。
あ、いや、実際に出会ったわけじゃないんだけどさ」
choco「……うん」
V「僕ががっかりするんじゃないか? とか色々考えてるかもしれないけど、
そんなことにならないから、安心して会いにおいで。
手をつないでデート、するんでしょ?」
choco「……うん、ありがとう。私もVさんが好き、大好き……」
V「大丈夫、きっと明日は幸せな一日になるよ」
choco:Vさんの優しい言葉が胸の奥にしみこんでいく。
本当に好きになってよかったと、心からそう思う。
インターネット越しであっても、この恋は本物なんだと強く感じる。
だから、明日、私はすべてをVさんに打ち明けよう。
例え、この恋に終わりを告げようとも。
20年後 千代子38歳 勝敏54歳
勝敏『千代子へ。ずっと黙っていて、ずっと隠していてごめん。
なかなか言い出すきっかけがなかったんだ。
いや、これも言い訳だね。本当にごめん』
千代子「本当にそうですよ……。どうして黙っていたんですか……」
勝敏『病院で分かった時にはもう手遅れの状態だった。
もって半年と医者に言われたよ。だけど、最後まで僕は僕たちの家にいたかったんだ』
千代子「勝敏さん……、なにも言わなかったじゃないですか……。
痛いとも、苦しいとも……。いつもみたいに笑っていたじゃないですか……」
勝敏『また千代子に苦労をかけることになってしまって申し訳ない』
千代子「そんなこと、そんなこといいんです……」
勝敏『千代子と出会えて、僕は本当に幸せだったよ』
千代子「私も……、幸せでした……」
千代子:病院のベッドで眠る勝敏さんの隣で、
私は彼が書き残していた手紙を読みながらひとつひとつに応えていきます。
手紙を持つ手はは震え、涙はぽろぽろと零れ落ちていきます。
とめどなく、止まることなく、今まで気づかなかった愛情と一緒に。
V「……本当にchoco、なの……?」
choco「……うん、私がchocoだよ……」
V「ごめん、ちょっとびっくりして……。失礼かもしれないけど、本当に27歳なの?」
choco「……ごめん、Vさんに嘘ついてたの。本当はね、17歳で、今日18歳になったんだ……」
V「僕が34歳のおじさんだって知ってたよね? 分かってたよね?」
choco「うん、ちゃんと分かってるよ。どれだけ歳が離れてるかも分かってる。
だけど、それでもね、例えVさんが何歳だったとしても、私はVさんに恋してた。
それくらい、私はVさんのことが好きなの」
V「いや、なんかごめん。ほんと突然のことで……」
choco「ううん、私こそごめんなさい。今までVさんに嘘ついてて……」
V「いや、chocoが謝ることじゃないよ」
choco:Vさんは初めて目にした私の姿に、言葉をなくしてしまいました。
それもそうでしょう、今まで大人の女性と思っていたのに、
まだ大人になりきれない子供が目の前に現れたのです。
Vさんに出会い、喜びと不安で心が満ちては引いていきます。まるで波のように。
勝敏『いったい何度同じ月を眺めて歩いただろうね。
千代子と手を繋いで歩けなかったことがほんの少し心残りかな』
千代子「ごめんなさい、勝敏さん……」
勝敏『千代子に伝えたいことが頭の中でいっぱいになってうまく言葉にできないよ。ごめんね、最後の手紙なのに』
千代子「いいえ、いいえっ……」
勝敏『色んな言葉が浮かんでくるけれど、この一言を最後に残していくよ』
千代子「……っ、っ……」
勝敏『千代子、ただ君を、愛してる』
千代子:今更になって眠る勝敏さんの手を握り締めても、とてもその手は冷たくて。
朗らかに笑う顔も、今はどこにもなくて。
病室の窓からはいつも二人で見ていた満月が見えて。
私はただただ、勝敏さんの手を握り締めて泣くことしかできませんでした。
V「えっと、choco……?」
choco「な、なに?」
V「あのさ、その……」
choco「……っ……」
V「デート、しようか。手をつないで。親子に思われるかもしれないけど」
choco「っ……うん、うん!」
V「そっか、だから、手をつないでデートがしたかったんだね」
choco:どうしてか私はVさんに差し伸べられた手を、『ようやく』握ることが出来たと感じました。
氷のように冷たいと思っていた手は、とても温かく、そのぬくもりに思わず涙が溢れました。
V「あ、choco」
千代子「勝敏さん……。もしも、生まれ変わっても、私はあなたに出会いたいです……。
今度はきちんと手をつないで、また一緒にお月さまが見たいです……」
V「今日は満月みたいだよ?」
千代子「だから、どうか。その時もまた、いつもみたいに笑ってくださいね。
私はあなたの笑顔が大好きでした」
V「そういえば、今日は十五夜か」
千代子・choco「「本当に、月が、綺麗ですね……」」
おわり