登場人物
比率(2:0:0)
鬼:
侍:
鬼と侍
SE:ザシュッ!!
SE:ドサリ……
侍「はぁ、はぁ……、やったか……」
鬼「……強いのう、お主」
侍「っ!! 首を斬られてなお死なぬのか、鬼は!」
鬼「いやいや、流石に鬼であっても首を斬られれば死ぬ。
こうして喋っておるのも、消えかけの蝋燭のようなものよ」
侍「……苦しかろう、介錯仕る(かいしゃくつかまつる)」
鬼「なに、すでに痛みは感じぬ。
それよりも、死ぬ間際にお主と話したい」
侍「よかろう。冥途の土産じゃ。つきあってやる」
鬼「ありがたい。ひとつ尋ねてもよいか」
侍「なんじゃ」
鬼「儂はこれまでに何十人もお主のように退治しようとやってきた侍を喰ろうてきた。
これでも天下無双と思うておったんじゃ。
なあ、儂は強かったか?」
侍「あぁ、何度も死を覚悟するほどに強かった。
一歩違えば、首を落としていたのは俺の方だったろう」
鬼「かはは、そうか。儂は強かったか。
うむ、儂を越えた者にそう言われると、満更でもないな。
最後にこれほど心躍る死闘を味わえたこと、感謝する」
侍「やりあっている最中、ずっとお前は笑っていたな」
鬼「そりゃあなぁ、本気で殺そうとしても死なぬ奴が目の前にいるのじゃぞ。
楽しゅうて楽しゅうて仕方がなかったのよ。
そういうお主も、笑っておったではないか」
侍「む、……気づかなんだ」
鬼「儂みてえに笑っておったぞ。かはは」
侍「そうか、俺は楽しかったのか。うむ、そうか」
鬼「お? なんじゃ、そのように笑うことも出来るのか。
よいのう、やりあっている最中の獰猛な笑みもよかったが、
今のガキのような笑みもよい」
侍「からかうな、たわけ」
鬼「ふぅ……、そろそろ終わりか。
お主、酒は持っておらんか?」
侍「……馳走してやる」
鬼「ありがてえ。すまんが口に流し込んでくれねえか。
もう手酌もできねえからな」
侍「あぁ」
鬼「んぐ、っかはぁ……。首だけになっても酒はうまいのう。
ほれ、お主も呑め」
侍「元々俺のもんだ。んぐんぐ……、ふぅ。
おい、鬼よ、もう死ぬか?」
鬼「あぁ、死ぬな」
侍「そうか。
……楽しかったな」
鬼「っ。
あぁ、楽しかった。ほんに楽しかった!」
侍「では、俺はもう行く」
鬼「あぁ、地獄でまたやろう。
今度は儂が勝つぞ」
侍「たわけ、次も俺の勝ちだ」
鬼「かははははは、それでこそ儂を斬った男じゃ。
かはははははは……は……」
侍「……死んだか。
なんとも気持ちのよい鬼じゃったな。
さて、行くか……」
おわり