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たいようのはな。七章:夢の終わり。

登場人物

桐崎 晃汰(きりさき こうた)
 東京の大学へ通う大学生。
 写真が趣味であり、そのレベルはプロになるには一味足りないといった具合。
 現在、スランプ。
 いつからか原因不明の頭痛に悩まされるようになるが、すぐに治まるため深刻には考えていない。
 紗奈のことを大切に思っており、何かあればすぐに大丈夫かと訊ねるほど。

「今回の旅行で紗奈の写真もたくさん撮るつもりだから、頑張って慣れようね」

 

沢渡 紗奈(さわたり さな)
 晃汰の恋人で、同じ大学へ通っている。
 白という色を好み、晃汰の撮る写真に惹かれ、付き合うことに。
 とても恥ずかしがり屋な性格で人見知り。
 初めての人と出会うと晃汰の背中に隠れるほど。
 丁寧な言葉づかいとふんわりとした性格から、小動物のような雰囲気を持つ。

「そ、そういう恥ずかしいこと言うの、禁止、です」

 

双海 夏希(ふたみ なつき)
 晃汰の幼馴染。晃汰のいない間も彼の祖父母に何度もお世話になっている。
 演劇サークルに所属しており、主役を張るほどの演技力を持つ。
 さっぱりとした性格と腰まであるポニーテール、豊満な体つきが特徴。

「よろしくね、紗奈ちゃん。アタシのことは夏希さんでも夏希ちゃんでも好きなように呼んでいいから」

 

桐崎 しの(きりさき しの)
 晃汰の祖母。常に人を安心させる笑みを浮かべ、その笑みに負けず劣らず優しい性格をしている。
 プロ顔負けな料理の腕をもつ。

「ふふふ、晃汰の祖母の桐崎しのです。お婆ちゃんでいいよ、紗奈ちゃん」

 

しのは誰かが兼ね役でお願いします。

配役(1:2:1)かぶり(0:1:0)
晃汰:
紗奈:
夏希:
ナレ:
被り
しの:

七章:夢の終わり。

晃汰:夜の闇に吸い込まれるように、紗奈の背中が遠ざかっていく。
この胸を引き裂く痛みを、僕は知っている。だけど、それはいつだ。
思い出そうとするたびに頭痛がひどくなっていく。
まるで、それに触れてはならないというように。

 

晃汰:たいようのはな。七章:夢の終わり

 

SE:ガララッ!!

晃汰「はぁっ、はぁっ……。婆ちゃん!」

SE:足音(しの)

しの「はいはい、そんなに大きな声を出してどうしたんだい?
おや、ずぶぬれじゃないかい。タオル持ってくるから、ちょっと待っててね」

晃汰「はぁはぁ……、紗奈は? 紗奈は帰ってきてない!?」

しの「紗奈ちゃん、かい? 晃汰と一緒にいるんじゃ……」

晃汰「っ!! カメラ、預かっといて。ちょっと行ってくる」

しの「晃汰!?」

SE:ガラッ!!

しの「……紗奈ちゃんが、いなくなった?」

 

SE:タッタッタッ(走る)
SE:ザァー(雨)

晃汰「はぁっ、はぁっ、っぐぅ……、くっ、紗奈……」(途中で頭痛をこらえる。頭痛音)

ナレ:晃汰は頭痛に耐えながら、夜の花守村を走り続ける。
全身を打つ生ぬるい雨は、目を開けていられないほど勢いを増していく。

晃汰「はぁっ……、ここにも、いない……。次っ」

ナレ:二人で歩いた道を、一人駆けていく。
走りながら、彼女がどこにいるのかを必死に考えようとするが、頭痛がそれを阻む。

紗奈『あなたは……、花になってはいけません……』(六章より)

晃汰(花になってはいけないって、どういうことなんだよ……。
なんでこんなにも胸がざわつくんだよ!)

SE:ザザッ(ノイズ)

紗奈『私、晃汰くんに出会えて本当によかったです……』(聞き取れないくらいノイズ加工。九章より)

晃汰(なんだ!? 僕は何を忘れてる!?)

SE:ザザッ(ノイズ)

紗奈『もう、怖いものなんてありません……』(聞き取れないくらいノイズ加工。九章より)

晃汰(分からない……。分からない、分からない、分からないっ!!)

SE:ザザッ(ノイズ)

紗奈『あいして、ます……、こう、た、くん……』(聞き取れないくらいノイズ加工。九章より)

晃汰(っぐぅ、頭が……。いつもならすぐに治まるのに、どうして今に限って……)

SE:ぬかるみを走る音

ナレ:ぬかるんだあぜ道を走り、石段を駆け上がっていく。
晃汰のお気に入りの場所へ、紗奈から答えをもらった特別な場所へと向かって。

紗奈『あなたが気づかなくても、沢渡紗奈は、ずっと晃汰くんのそばにいますよ』(六章より)

晃汰(ずっとそばにいるって、そう言ったじゃないかっ!)

ナレ:視界が開(あ)ける。
彼女とともに見た青い世界は、今は夜に染まり、黒い世界へと姿を変えていた。
そして、そこに彼女の姿は、――なかった。

晃汰「はぁ……はぁ……、どこに行ったんだよ、紗奈……」

SE:携帯着信

晃汰「っ!?」

SE:携帯を取り出す

晃汰「っ、夏希……。……、もしもし」(ディスプレイ確認。切ろうと逡巡したあと、出る)

夏希「今どこに居んの!!」

晃汰「っ、そんな大きな声ださなくても、聞こえてるよ……」

夏希「さっき、お婆ちゃんに聞いた。紗奈ちゃんがいなくなったんでしょ?
なにがあったのさ!?」

晃汰「……、夏希には関係ないよ」

夏希「関係あるよ! ねえ、今、どこにいるの。
紗奈ちゃんを探してるんでしょ? 私も一緒に」

晃汰「夏希」(遮るように)

夏希「っ」

晃汰「これは僕がやらないといけないことなんだ」

夏希「え、ちょっとコウちゃん!?」

晃汰「悪い」

夏希「あ、切るな、切るなってば!!」

SE:ピッ (携帯を切る)

ナレ:晃汰はそのまま携帯の電源も切り、ポケットにねじ込んだ。
深く息を吐き出し、改めて強く決意する。

晃汰「僕が、紗奈を見つけないといけないんだ……」

ナレ:その時だった――。

紗奈『晃汰くん……』

SE:バッ!!(振り向く)

晃汰「紗奈!? ……いない。でも、今、確かに声が……。
この先は……、くそっ、どうして気付かなかったんだ!」

SE:走る

ナレ:声の先に、彼女はいると心が告げている。
晃汰は気力を振り絞り、再び夜の世界をひた走る。
あの永遠に散り続ける桜の元へ。

晃汰「はぁ……、はぁ……、もう少し……」

ナレ:晃汰が公園へとたどり着いた時には、雨足は弱まり、視界を白くかすませる霧雨となっていた。

SE:足音

晃汰「ここに、いるはず……。っ!? なんだ、あれ……」

ナレ:晃汰が目にしたものは、淡く薄紅色に輝く野外舞台だった。
その神秘的な光景に言葉をなくしたまま、晃汰はゆっくりと近づいていく。
そして、そこに彼女の姿は、――あった。

紗奈「晃汰くん……」

晃汰「見つけたよ、紗奈……」

紗奈「見つかっちゃいました……」

ナレ:散りゆく桜を背景に、悲しみに濡れた微笑みを浮かべる紗奈は、今にも消えてしまいそうな儚い印象を抱かせた。
まるで、あの時に見た桜の精のように。

晃汰「夜に見る桜も、綺麗だね」(何事もなかったかのように)

紗奈「そう、ですね」

晃汰「紗奈も綺麗だ」

紗奈「……」

(ちょっと間をおく)

晃汰「紗奈、好きだ……」

紗奈「はい……」

晃汰「ずっと、僕のそばにいてほしい……」

紗奈「はい……」

晃汰「僕を、おいていかないでくれ……」

紗奈「……」

晃汰「どうして、黙るのさ」

ナレ:今すぐにでも彼女に駆け寄り、抱きしめたいと思うのに、晃汰は近づくことが出来ないでいた。
紗奈の悲しげな瞳が、彼をすくませる。

紗奈「……、舞台の途中で席を立ってしまい、すみませんでした」

晃汰「どうしてか、聞いていいかな?」

紗奈「本当は最後まで見ているつもりでした……。
でも、耐えられなかったんです……」

晃汰「……なに、に?」

紗奈「あなたに、あれ以上夏希さんを見てほしくなかった。
夏希さんを見ているあなたを、あれ以上見ていられなかった……。
……私は、夏希さんに嫉妬してしまったんです」

晃汰「……僕が好きなのは、紗奈だよ」

紗奈「そうじゃないんです。

違うんですよ、晃汰くん」(途中から涙声に)

晃汰「っ!?」

紗奈「私も、あなたとずっと一緒にいたい……。
でも、それじゃだめだって、『あの人』が教えてくれたんです……」

晃汰「あの、人……?」

紗奈「あなたは……、花になってはいけないんです……。
私は水面に映る影でしかないんです。あなたを苦しめることしかできないんです!」(後半泣き叫ぶ感じ)

SE:ビュオォォォォッ!!!(突風が晃汰を襲う)

晃汰「なっ!?」

ナレ:彼女の慟哭どうこくに呼応こおうするかのように、突風が晃汰を襲った。
咄嗟に目をかばった彼は、薄紅色に光り輝く大量の花びらが、風に乗って絵から飛び出してくるのを見た。

紗奈「私は、あなたに幸せになってほしい! 私を愛してくれたあなたを!
そのために、私は消えると決めたんです!!」(そのために、で少し抑える)

SE:風消える

紗奈「あなたを、愛しているんです……」(愛しさと悲しみに涙)

ナレ:風が止むと、世界は薄紅色の淡い光を放つ花びらに包まれていた。
まるで、『彼ら』が思いを交わしたあの時と同じように。(散りゆく桜の二人のこと)
桜の花びらを纏い、紗奈が泣いている。

紗奈「っ、ぐすっ……うぅっ……」

晃汰「紗奈……」

SE:歩く

ナレ:子供のように泣いている紗奈を抱きしめるため、晃汰はゆっくりと歩み寄る。
しかし、どれだけ歩もうとも彼女との距離が縮まらない。

晃汰「っ? くっ!!」(走り始める)

SE:走る

晃汰「はっ、はっ……、どうして、どうして近づけないんだよ!?」

紗奈「晃汰くん……、私と最後に触れあったのはいつだったか、覚えていますか……?」(すこし泣き止む)

晃汰「はぁ、はっ、そんなの、っ!?」(途中であることに気づき、立ち止まる)

紗奈「そう、この村に来てから、いいえ、もっと以前から。
私達は手をつなぐことも、触れることすらありませんでした」

晃汰「……いつだ……? 最後に紗奈と……。
っ、ぐぅぅぅぅっ!!!」(頭痛が襲う。頭痛音)

紗奈「思い出すことができませんか? 仕方ないことなのかもしれません。
思い出せば、この夢のような時間が、終わるのですから。
でも、あなたは本当はすべて分かっているはずです。ただ、信じることができないだけで……」

晃汰「……ぁ、っ……、っうぅぅ……」

紗奈「そうやって目を背けるたびに、あなたは自分を傷つけ続ける。
私も『あの人』も、もうそんなあなたを見たくないんです……」

ナレ:悲しげな瞳が晃汰を見つめる。
それは、あの桜の精と同じ、悲しみに満ちた瞳。

晃汰「紗奈っ……」

紗奈「私は、幻です……。(とても悲しそうに)
あなたが都合よく作り上げた『あの人』の、沢渡紗奈の幻でしかないんです……」

晃汰「っ、ぁ、ぁ、そんなことないっ!!」

紗奈「いいえ、現に私の姿はあなたにしか見えていません」

晃汰「嘘だっ! 婆ちゃんや爺ちゃん、それに夏希だって紗奈のことが見えていたじゃないか!」(泣き叫ぶ)

紗奈「……とても、優しい人たちです……」

晃汰「――うそ、だ……」(感情が止まる)

紗奈「あなたを傷つけないための、優しい嘘」

晃汰「そん、な……」(膝をつく)

紗奈「あなたを待っている人達が、大切に思ってくれている人達がいます。
もう、この夢から覚めなければいけません……」

ナレ:そっと紗奈は晃汰へと近づくと、指先で彼の涙を拭った。
その雪のように冷たい指先が、彼の世界を、彼女の世界を、終わらせた。

(紗奈が死ぬ間際に晃汰の涙を拭った指先の冷たさを思い出したため)

SE:頭痛音

晃汰「っがあっ!!! あた、まが……」(ひどい頭痛が襲う)

紗奈「思い出してください……。あの日のことを……」

SE:ザザッ(ノイズ)

晃汰「っ、っ、ぐぅぅ……」

紗奈「あのクリスマスを……」

SE:ザザッ(ノイズ)

紗奈『あいして、ます……、こう、た、くん……』(聞き取れないくらいのノイズ加工。九章より)

晃汰「さ、な……」

紗奈「もう、夢は終わりです……。(優しく。以降、無理に明るく振舞おうとする)
くす、あの時の言葉、本当は少しだけ間違えちゃったんです。
だから、もう一度言わせてください。
……あなたが気づかなくても、沢渡紗奈も『私も』、ずっと晃汰くんのそばにいますよ……」

晃汰「行くな……。僕を、置いていかないでくれ……」(痛みと悲しみで涙)

紗奈「あ~あ、本当に悔しいです。夏希さんがうらやましい。
でも、あの人なら……」

晃汰「嫌だ……、嫌だっ!! 行くなぁっ!!」

 

ナレ:晃汰は必死に紗奈へと手を伸ばすが、その手が彼女に届くことは無い。
頭痛はますますひどくなり、痛みで視界が白く染まっていく。
薄紅色の桜の花びらに囲まれて、紗奈が優しく微笑みかける。

紗奈「晃汰くん……、私も、紗奈さんや夏希さんに負けないくらい、あなたのことが大好きです……。
だから、(長い間)――――さようなら」(さようならで耐えきれず、涙声に。微笑みながら泣く感じ)

晃汰「紗奈ああああああああああああぁぁぁぁぁっっっ!!」

ナレ:真っ白な世界に、彼女は笑顔のまま、溶けるように消えていった。

夏希「……ちゃんっ!! コウちゃんっ!!」(泣きながら必死。できれば、フェードイン)

晃汰「っ、紗奈っ!!」

夏希「……ぐす、もう、こんな時にまで女の子の名前を間違えないでよ……、馬鹿……」(涙を拭いながら)

晃汰「なつ、き……?」

ナレ:晃汰が目を覚ますと、舞台衣装に身を包んだままの夏希が涙を浮かべ隣にいた。
泥のついた衣装や髪が濡れていることから、雨の中、彼女が必死に探し回ってくれていたことが窺える。

晃汰「悪い……、心配かけたな……」

夏希「ほんっとだよ。あんな電話の切り方しやがって!(ちょっとキレ気味)
見つけたと思ったら、こんなところでぶっ倒れてるんだもん。死んでんのかと思ったじゃんか!!(ちょっと間を空ける)
は~あ、それで? 紗奈ちゃんは見つかったの?」(気を取り直して)

晃汰「っ!?」

ナレ:桜の花びらに囲まれて、涙ながらに微笑んだ彼女の姿がよみがえる。
慌てて辺りを見回すが、花びらの痕跡などどこにもありはしない。

晃汰「あれは、夢だったのか……?」(自分に対する呟き)

夏希「ねえってば。紗奈ちゃんとは会えたの?」

晃汰「……いや、会ってない」

夏希「ほんとに?」(真面目に、疑うように)

晃汰「ああ、夢の中で、少し会っただけだ」

夏希「そう……」

ナレ:彼は、さきほどの全てを否定した。否定しなくてはならなかった。

紗奈『――さようなら』

ナレ:別れの言葉など、あってはならない。
また少し、頭痛がひどくなった。

SE:立ち上がる

晃汰「つっ、紗奈を、探さないと……」(頭痛をこらえながら、立ち上がる)

夏希「ちょちょ、そんなぼろぼろの体で無茶だよ!?」

晃汰「僕が、探さないといけないんだ……」

夏希「そうは言うけどさ、さすがに無理だって!
あ、ほら、私も一緒に探すの手伝うよ! 手分けしてさ、ね?」

晃汰「っ!!」

紗奈『とても、優しい人たちです……』

晃汰「どうやって探すんだよ!! 見えないんだろ!!」(逆切れ)

夏希「え?」

晃汰「っ!?」(何を言ってるんだ、僕は、という驚き)

夏希「コウ、ちゃん……?」

晃汰「……ぅ、あ、悪いっ!」

SE:逃げるように走っていく

夏希「……」

ナレ:突然の思いもよらない言葉に、夏希は遠ざかって行く彼の背中を
追いかけることができなかった。ふと桜の絵へと視線を向ける。

夏希「……紗奈、ちゃん?」

ナレ:桜はいつもと変わらず、美しく散り続けている。
夏希はすぐそばまで近寄ると、瞳を閉じ、額ひたいを壁へとあずけた。

夏希「そこに、いるの? コウちゃんに言ったの……?」

ナレ:桜は何も答えない。

夏希「もう、終わらせるね? 紗奈ちゃんも力を貸してくれると、うれしいな……。
一緒に、コウちゃんの夢を終わらせよう……」

SE:ジャキン(はさみの音。髪を切る)

晃汰:あてもなく夜の世界を走り続ける。
紗奈の言葉も、夏希の言葉も、僕自身も、何もかもが信じられないまま。
紗奈に、会いたい。紗奈を抱きしめたい。すべてを忘れて――。

 

つづく

この記事を書いた人
書上トモ

仮面夫婦の夫。動画作成や別名義で声劇台本やセリフを書いている。
最近、煙草をやめるように妻に言われて、禁煙をしてはまた吸ってしまう日々を繰り返している。
別名義:モモチヨロズ。ツイキャスやボイコネ、スプーンに現れる。
声劇歴だけは異常に長い。

声劇台本
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仮面夫婦の仮面の中